第9回 インセンティブ政策時代の幕開け ~人は罰則で動くか、それともインセンティブで動くか~
インセンティブ政策時代の始まり?!
授業を受ける度にグルグルと教授が変わり(基本的には、1回か2回ごとに教授が変わる)、その人の癖や話し方、生徒に質問するのが好きなタイプか、ウロウロ歩きまわるタイプか、ホワイトボードの文字は何て書いてあるのか……など居眠りしている暇がありません。毎回、毎回、真剣に向き合わないと聞き逃してしまうかもしれない重要なネタ(?!)を探し出すべく、一言も聞き逃せない日々が続いています。
そんな中、衝撃的な話を聞くことができました!
「授業ってなんだ?」という前提をご存じない方のために説明しておきますと、私は9月から労働大学なるものに通い、週に2日ほど労働法をカジッているのです。
(労働大学に通いはじめた話は、「第7回 労働大学校に通いはじめて1カ月」を一読ください。)
さて、法律というのはどんどん制定され増える一方で、私は「そんなに増えてどうするの?」という素朴な疑問を日々抱いていました。そしてこの増加していく現象により、窮屈さがどこまでもエスカレートしていくことに恐れすら感じていました。別にやましいことはありませんが…。
これまでの法律というと、基本的に「~は、してはならない。」「~は、しなければいけない。」などという文言が並び、いわゆる「命令」や「制裁」、「強制」で縛っていくことが常となっていました。特に、昭和22年に制定された「労働基準法」では、罰則が57条にも設定されており全体に占める割合は実に40%を超えています。参考までに罰則の種類を調べてみると、下記のような4つの種類となっていました。(図1)
- 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
- 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 30万円以下の罰金
インセンティブ型……それは「女性活躍推進法」から始まった
2015年8月に成立した「女性活躍推進法」(正式名称「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)はとても衝撃的な、歴史的に見て大きな転換点となる法律だそうです。なぜならこれは、上記で述べた罰則のある従来型とは一線を画す、いってみれば「インセンティブ型」で法律を制定しているからです。
このインセンティブ型がどのようなものかというと、ちょっと調べてみたところ欧州では既にそのような政策が多数とられておりました。例えばEUが2010年6月に発表した経済成長戦略「欧州2020」では、多くの国で雇用推進策として社会保険料の一部免除をインセンティブとしています。
フランスでは、オランド大統領が政権公約に「若者・高齢世代同時雇用契約」として高齢労働者のポストを維持しながら若年労働者の採用を決定した際に税制の優遇措置を与える、というなんとも画期的な制度を5年以上も前から実施しています。
従来の罰則型は、法律で縛って何かをさせようとしていたものの、それでは常に抜け道を探す輩がいたり、時代が変わったらほとんど意味のないものになってしまったりすることが多くありました。
それに比べ、「北風と太陽」ではありませんが、「これを実行したらご褒美をあげるよ~」的な打ち出しをして、制度を前向きに捉えて実行してくれたときには、インセンティブが与えられるといった図式が新しく打ち出されてきています。
今回の、女性活躍推進法では301人以上の企業は行動計画を提出し実行すれば認定がもらえるというインセンティブであり、そのために、PDCAを回して改善を促すという作業も伴っていくという設定になっています。
「安全衛生優良企業公表制度」もインセンティブ型
この話を聞いて、「安全衛生優良企業公表制度」も同じ仕組みだなと思いました。ちなみに、現在の認定を受けた企業が受けられるインセンティブは下記のようになっています。
安全・衛生に関する制度についてのQ&A(厚生労働省Webサイト)
少々分かりにくいですが、上記の当初設定したインセンティブは認定されると厚生労働省のサイトに掲載されるとかハローワークの求人票でアピールできるとか、調達や入札で有利になるなどといった内容です。
しかし、私個人的にはこのようなインセンティブだけではパンチがないと思っており、例えば、厚生労働省が認定するものであるのだから、社会保険料の削減やすべての企業にインパクトのある法人税の優遇などがあったらいいと考え、厚生労働省との定例ミーティングでも提案していたところだったのです。とはいえ、まだホワイトマークの認定企業が少ない状況では大きな意見も言えない状況ですから結論は先送りとなっていました。
そんなところに、今回のようなインセンティブ政策の話が既に欧州では実施され、社会保険料や税制優遇を受けているということを聞いて居ても立ってもいられない衝動に駆られたのでした。
このインセンティブ政策の流れは、もはや止められない時代の象徴となっていくでしょう。そういった時に、“安全”と“健康”の証であるホワイトマークが将来にとっても財産となる日は想像に難くありません。
直近のトピックスとしては、2017新卒採用のスケジュールが11月中に固まるという話を聞いています。その際に、学生に認知されはじめたこのホワイトマークを大きく掲げることが企業をピーアールする上で大きな武器となることは間違いないでしょう。